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宮崎日日新聞に掲載されました(日向カボチャ新品種/陳 蘭庄教授)

宮崎日日新聞(宮日)に、日向カボチャの新品種開発について(陳 蘭庄教授)の記事が掲載されました。

[宮崎日日新聞掲載 2023年1月31日 ]
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宮崎在来野菜「日向カボチャ」新品種 ‘南九ブラックボールNo.3号’の育成について

 

南九州大学は、宮崎民謡にも登場する宮崎在来野菜「日向カボチャ」が蔓1本に1度に1果実しか着果できず、糖度も低く、果肉が粘質で煮物にしか適しない弱点をほぼ克服した「ニュー日向カボチャ」新品種として‘南九ブラックボールNo.3号’を育成し、昨年秋より促成黒皮カボチャ産地での実地栽培・利用を開始しました。

1.品種育成の経過

 宮崎在来野菜である「日向カボチャ」の代表品種‘宮崎早生1号’は1963年に宮崎県農業試験場が発表したF₁の極早生品種である。他のセイヨウカボチャに比べて、つる1本に1度に1個の果実しか着果できず、糖度が低く、果肉は粘質で、煮物以外の用途に適していません。そのため、セイヨウカボチャが、粉質の果肉と良好な食味で普及した昭和40年以降は栽培農家が年々減少し、2002年に栽培面積と生産量はピーク時の1/10となりました。本研究が開始した2007年には10軒ほどの農家が、2021年度にはたったの4軒に、2022年度にとうとう2軒までに減ってしまいました。2007年に育成者が、南九州大学園芸学部(いまは環境園芸学部)蔬菜そさい園芸学研究室に着任したことをきっかけに、それまでに宮崎県や市から何度も「何とかして「日向カボチャ」をもう一度復活させられないものか」と聞かされたことがあって、そこで2007年から「日向カボチャ」の品種改良に本格的に着手しました。

 最初は元宮崎県農業試験場副場長の富永寛氏と共に宮崎市の栽培農家を訪れ、地元の意見も取り入れ、つまり「日向カボチャ」のもつ形をできる限り残しつつ、品質と着果性の向上を図ることにしました。方法としては、以上の目的に合った育種材料を全国から探して、「日向カボチャ」‘宮崎早生1号’とほかの4品種を用いて、合わせて8通りの組合わせで正逆交雑を行った結果、最終的に正逆ともにF1種子が得られ、同時着果も認められた(F1世代)のは‘久台-33号’と‘宮崎早生1号’との組合せだけでした。育成経過は図1に示しています。「系統10」集団内(個体間)の交配によりF6とF7世代を繁殖させ、農林水産省品種登録審査基準に従って調査を行いました。今回、品種登録を出願した‘南九ブラックボールNo.3号’(品種登録出願番号:第36100号;令和4年3月22日)は、F7世代の「系統10」由来です(図2)。

 

F1世代(正逆交雑成功)↓(自殖)
 F2世代(理想型20系統を選抜)↓(同上)
  F3世代(6つの優良系統を選抜)↓(同上)
   F4世代(4つの理想系統を選抜)↓(同上)
    F5世代(2つの理想系統(「系統10」「系統13」)を選抜)↓(「系統10」の個体間交配)
     F6世代(「系統10」を増殖)↓(同上)
      F7世代(「系統10」)
*場所:南九州大学都城キャンパス環境園芸学部付属フィールドセンター温室
図1. 種間交雑法を用いた‘南九ブラックボールNo.3号’の選抜育種過程

2.‘南九ブラックボールNo.3号’の特徴 

 *「日向カボチャ」の形の保持:果形が心臓型で果皮色が黒緑色、表面に縦溝がある黒皮群の特徴を備えています(図2);

*粘質から粉質への改善:果肉は橙色でやや粉質、煮物や天ぷら等にも利用できる(図3);

*糖度の向上:糖度は7~8度から10度前後へ改善(表1);

*食味の向上:甘味5段階評価で、両親の2.4-2.5より高く3.0を得ました(表1);

*着果性の改善:つる1本に1度に連続して2~3個同時に着果できる;

*収量性向上への期待:これまで1か月前後1果実しか収穫できなかったが、連続着果して成熟期間が2~3週間に短縮でき、全収穫期間内での収量向上が期待できます。

図2. ‘南九 ブラックボールNo.3号’の果実の形。左:‘久台-33号’; 中間:‘南九 ブラックボールNo.3号’;右:‘宮崎早生1号’。撮影日: 2022年1月13日;

撮影場所:南九州大学環境園芸学部付属フィールドセンター(都城市)

図3.‘南九 ブラックボールNo.3号’の果実の果肉形態。左:‘久台-33号’;中間:‘南九 ブラックボールNo.3号’;右:‘宮崎早生1号’。 撮影日: 2022年1月13日;撮影場所:南九州大学環境園芸学部付属フィールドセンター(都城市)

3.‘南九ブラックボールNo.3号’の利用について

 *この品種はF1品種ではないので、毎年交配による煩雑な種子生産コストが削減できます。

*純系を維持するため、当面は南九州大学で種子取りをして種子を販売します。必要に応じてしかるべき種苗生産機関に委託します。

*本品種は、まだ生産性(いま、2軒の農家で試験栽培しているが、最大限に本品種の果実着果の潜在能力を発揮するため、より多くの生産現場での実地検証を行う)、機能性(粘質性や粉質性を生かして、成分分析と料理作成などでの実証を行う)、およびマーケティング性(いま、宮崎市生目地域の農家による栽培をしているので、実演販売などを通じて販路の開拓と、これまでの納入先との交渉を行い、「ニュー日向カボチャ」シリーズとして‘宮崎早生1号’と共に県外市場へ進出を図る)において、研究する余地が多々あると考え、宮崎市農政部、JA宮崎中央と南九州大学でチームを組んで、‘南九ブラックボールNo.3号’の普及・市場開拓を共に総合的に検証・推進したい。

4. その他

 *南九州大学環境園芸学部蔬菜そさい園芸学研究室(生物工学研究室2009~2020年)は、2007年から地域貢献と地域振興をモットーに、宮崎県、宮崎市、JA宮崎中央、西米良村などの自治体や団体と協力して、大学内外の研究者と力併せて、昔は盛んで現在は消滅または消滅危機となっている宮崎在来野菜「佐土原」ナス、「糸巻き大根」、「日向カボチャ」を中心に、現代の技術を活用しながら品種改良して、再び現時代に合うようなブランドとして発展させる研究を進めています。これまでに15年間をかけて、100名以上の卒業生・院生・在学生とともに、令和3年に「糸巻き大根」新品種‘南九パープルNo.1号’、‘南九ホワイトNo.2号’を、令和4年に「日向カボチャ」新品種‘南九ブラックボールNo.3号’を、それぞれ農林水産省に品種登録出願しました。今年令和5年に「佐土原」ナス新品種を品種登録出願する予定です。