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新谷教授の昆虫の生活史に関する論文(京都大学教授との共著論文)がトップジャーナルに掲載されました

 環境園芸学科の新谷喜紀教授(昆虫生態学研究室)が第2著者として執筆をした総説論文がAnnual Review of Entomologyという国際学術雑誌の2023年の刊に掲載されました。新谷教授は長年にわたって昆虫の生活史に及ぼす環境の影響について研究してきました。一口に昆虫と言っても世界に100万種ほどが知られていますが、これらを生活史の時間でみると、アブラムシ類やモンシロチョウのように1年に何度も発生する(つまり1世代に要する時間が短い)種もいますが、セミ類のように1世代に何年も要する種もいます。今回の論文では、1世代に1年かそれ以上の時間を要する昆虫の生活史について、その調節メカニズムという観点から分類して生態学的な意義について議論しています。生活史の調節メカニズムとは、例えば、1年のある特定の時期に生殖をするために環境情報に応じて成長速度を変えたりある時期を眠って過ごしたりするしくみのことを指します。意外な昆虫が1年以上の生活史を持っていたり、意表をつくような要因によって発生時期が調節されていたりします。また、この論文では環境変動がこのような長い生活史の昆虫に及ぼす影響についても考察しています。このAnnual Review of Entomologyという雑誌のインパクトファクターは2023年1月現在で22.682となっています。

 インパクトファクターとは、その雑誌に掲載された論文の数やそれらが引用された回数などを基に算出され雑誌ごとに付与される毎年変動する値であり、その雑誌に掲載された論文の影響力の指標とされ、その雑誌に論文を投稿した場合の掲載の難易度の参考にされることもあるようです。種々の基準を満たした雑誌だけがインパクトファクター付与の対象とされ、この数値が10を超えれば一流誌とされることが多いようです。昆虫学関連では世界全体で約100の対象雑誌があるのですが、その中でAnnual Review of Entomologyは、第1位となっています。

 新谷教授によると、多くの農業害虫のように1年に何度も発生する「多化性」の昆虫では生活史の調節メカニズムは比較的単純であることがわかっているものの、長い生活史の昆虫では複雑なことが多く知見の整理や現状の研究の方向性に関して統合的な理解が不十分であったということです。そこでこの課題について約2年半前に筆頭著者の京都大学の沼田英治教授とともに執筆を始め、構想を練る、引用文献を厳選する、推敲するといった作業を繰り返し、発行に至りました。このような生活史調節のメカニズムの研究は、昆虫の飼育技術の確立のような基礎的な面に始まり、害虫の発生予測や食用昆虫の増殖、絶滅危惧種の生息域外保全などの応用的な面でも役立つ可能性を秘めています。昆虫の生活史に関する研究は地道で丹念な飼育や観察を根気強く続けなければならないためかこの分野の研究者の数自体が年々減ってきているらしいのですが、多様な事例を俯瞰することで新たな視点が生まれ開拓可能だということを再認識させられたとのことです。写真の昆虫は南九州大学昆虫生態学研究で生活史研究の研究対象としてきた種の一部です(今回の論文と直接関係があるとは限りません)。写真は成虫のステージのものばかりですが、卵や幼虫、蛹のステージで生活史が調節される種もいます。